巻頭言 

福岡県言語聴覚士会 会長 浅田 里美(西部療育センター)

今年は遠くに行くのはやめようと思っていたのに、重い腰を上げ東京に行ってきました。11月、都道府県士会の会議のためでしたが、実は密かにとても楽しみにしていたことがありました。
フェルメール展が東京都美術館にきているのです。フェルメールはオランダの画家で「光の魔術師」「静謐の画家」「寡作の画家」といわれ、現在36作品しか残されていません。
 今回、日本では、過去最多の7点の公開です。絵のことはよくわかりませんが、彼の絵には強い意図を感じ、何を伝えているのだろうと思わず見入ってしまいます。1つ1つの物や人を綿密に計算し描いていることが多いように思います。光と影で主題をうまく示し、カーテンなどを手前に描くことによってそれを覗いているかのような気分にさせられます。数少ない風景画でさえ、人物を入れることで物語が始まりそうな気持ちにさせてくれます。こんなに淡々と伝え、語りかけてくるのが不思議です。
 ついでに西洋美術館も覗いてみました。コペンハーゲンのハンマースホイ展があっていました。ほとんどの作品が室内と彼の妻の後姿が描かれていました。静寂で少し窮屈でしたが惹きつけられる不思議な絵でした。ドアがたくさん描かれていてよく見るとドアノブが描かれていません。それで、とても圧迫感を感じたのかもしれません。事実をそのまま伝えるよりも、効果的に作家の意図を感じます。画家も表現し、伝える仕事なんだと改めて感じました。
 日常の仕事で、私たちも患者さんやご家族に日々の訓練や状況、アドバイスなどいろんなことを伝えます。うまく伝わっているでしょうか?
「そんなつもりではなかったのに」「間違ったことを言ってないのに」と悔しい思いをした経験が私にもあります。でも、落ち着いて考えてみると、正しいことを言ったからといって、正しく伝わるとは限りません。私たちがことばというボールを投げ、患者さんやご家族にうまく受け取ってもらえる工夫が必要です。うまく受け取れるボールを投げていますか?そして、そのボールが日常で活かせるボールだと最高ですね。私の永遠の課題です。