巻頭言

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 暑い暑い夏、皆さんどのように乗り切りましたか?
 私が勤務する療育センターでは、夏はスタンダードな訓練の他にいくつか行事があります。その一つに、就学した子どもたちの同窓会があります。まだ、数ヶ月しかたっていないのに、たくましく成長した姿に、うれしく感じる瞬間です。
 今年、子どもたちは、保護者と離れ大学生の太鼓サークルのメンバーとワークショップをします。保護者は別室で情報交換会を行います。私たちからも、提供できることはないかなと考えますが、今年も、例年通りの「セルフエスティーム」について情報提供をしました。
「セルフエスティーム(self-esteem)」ということばをご存じでしょうか?10年くらい前に、心理スタッフに教えてもらったことばです。あえて日本語で言えば「自尊感情」「自己有能感」「自己価値」「自己肯定感」というところでしょうか。
 セルフエスティームが高い人は、情緒が安定し、自分自身への信頼が高いです。自分の行動に自信を持ち、挫折に強く、自分を大切にし、他者をも大切にできるそうです。一方、セルフエスティームが低いと、自分自身に否定的な感情を持ち、自分を大切にできず、向き合えない傾向にあります。不安感を持ちやすく、自分の能力を信用できないそうです。
 子どもの療育は「できない、遅れている」というところから始まります。できるようになっても、また、次の課題を見つけ出すことが多いです。できない自分から出発し、またできない違う自分を探し出す繰り返しになりがちです。保護者はどうでしょう?障がいのある子どもと診断を受け、専門家と呼ばれる人たちの支援を受けながらの出発です。親としての自信が育ちにくい状況ではないでしょうか。
 定型発達の子どもは、保護者も含め、できないことを意識するよりも、できるようになることを当然のように喜び、できなくてもいつかできるよと、子どもの能力を信じています。
 セルフエスティームは他者との関わり、他者からの評価を通して形成されると言われています。健全なセルフエスティームの形成には、成長過程で出会う「重要な他者」から、尊敬、受容、関心のある関わりを受けることが必要です。具体的には、「ほめる(認める)」「結果だけでなく過程を認める」「感謝される経験を重ねる」という感じでしょうか。
 患者さんやご家族のセルフエスティームはいかがでしょうか?そして、何よりも、あなた自信のセルフエスティームは?
 誰もがある程度のストレスを受ける社会です。「very good」も良いけれど「good enough(まあまあ)」も魔法のことばかもしれませんね。

会長 浅田 里美