協会都道府県士会への加入を巡って

福岡県言語聴覚士会会長 久保健彦


T.日本言語聴覚士協会都道府県士会と同協議会がスタート

日本言語聴覚士協会都道府県士会(以下「協会県士会」と略す)は、8月から受付が始まり、手続きが完了した10の県士会の参加で、11月16日に第1回日本言語聴覚士協会都道府県士会協議会(以下「協議会」と略す)が行われました。
またいくつかの県士会が、協会理事を招いて、この件に関する説明会を開催しています。

前回会報巻頭言で、基本的な資料や考え方は書きました。
原則論で言えば『いつでもどこででも必要とする人に質の高いサービスが提供できるようにする』という職能組織としての目的は、協会も
福岡県言語聴覚士会(以下「本会」と略す)も共通ですので、その実現に向けてSTが力を持つためには一つの組織として動くべきです。
しかしながら、さらに掘り下げて検討するために、協会が現在進めようとしている3つの案件を見てみます。


U.協会の来年度に向けた具体的な動き

1.賠償責任保険の発足(来年度の協会総会での承認必要)
本会会員からも時々『PT・OTにはあるのに、STには無いのか?』といった問い合わせがあります。
摂食・嚥下障害へのアプローチを初めとして、日々の業務の中で賠償責任保険の必要性を感じておられる方は多いと思いますが、さらに「ハラスメント」や「名誉毀損」などの問題、補聴器を落としてしまったといった対物補償などもあります。

2.学会の発足と学術雑誌(ジャーナル)の発刊(来年度スタート)
学会や学術雑誌発刊は全国組織レベルでないと無理ですが、臨床に直結した形での各地での勉強会や症例検討会、研修会などがなければ、学術活動の裾野は広がらず、活性化しません。
逆に、学会や学術雑誌がない中では、学術活動の質の向上は困難です。従って、全国と地域、両方での活動が大切です。

3.生涯学習システムのスタート(来年度の協会総会での承認必要)
私たちSTの資質向上を考える時、学術活動と密接不可分なものとして生涯学習システムの構築が必要です。
これは、1つの県士会で築くのは困難です。
逆に、実際に生涯学習を全国で全協会員に行き渡るように行うことは、各県士会が動かない限り実現不可能です。


V.協会が充実すると 

現時点では、福岡はもちろん他の道府県士会も協会よりも高い組織率となっていますが、PTやOTでは都道府県士会よりも全国協会の方が組織率が高いという逆転現象が起こってきているそうです(必要な情報は全国協会に入れば手に入る、県士会に入るといろいろな仕事が回ってくるなどの理由)。
『言語聴覚士という看板を掲げる以上、それに伴う社会的責務がある』ということで言えば、全てのSTが両方に入るのが理想ですが、なかなかそうはいかないのも事実です。
そんな中、協会で上記のようなことがスタートすると、『県士会か協会のどちらかに入ればいいや』などと思っている人は、協会を優先させるようになる可能性も大きいと思われます。

また上記の生涯学習システムのように、全国と地域が一体となって動かないとそもそも十分な展開が困難なものもあります。
こうしたことを考えると、協会のためというよりも、冒頭で述べた職能組織としての「共通の目標」を実現しやするために、そして県士会の充実のためにこそ、協会県士会と協議会に加入することが必要だと考えます。


W.メリット、デメリットは?

その他、加入するメリットとしては、協議会を通して地域の意見を協会に反映し易くなること、県士会活動に対する協会からの支援が可能になること、相互に入会を勧めることによる組織率の向上が図れること、実務担当者同士のネットワーク(保険担当者、地域リハ担当者等など)ができることなどが挙げられます。

他方、デメリットは何か考えられるのでしょうか? 
独自の会計と会則が認められていることでわかるように、協会県士会と協議会は、従来「支部」といったことばでイメージしていたような上意下達式のシステムではありません。
また、本当にSTの職能組織が充実するには、全国と地域の両方の活動が緊密に連携しながらも、それぞれが活発になるしかありませんので、県士会の独自性が侵されるといったことは心配しておりません。

問題となるのは、主として両方に会費を払わねばならないという金銭面でしょう。
しかし、これも上記のように協会活動が充実し、協会の組織率そのものが上がれば大きな問題にはならないと思われます。
また、どうしてもどちらか一方しか入らないという人がいたとしても、それは最終的には個人の意思です。
会則で『協会に入らないと、県士会から除名する』といったことをしない限りは、誰も入会を強制することはできないわけです。

このように見てくると、協会県士会に加入するデメリットは現時点ではほとんど思いつかず、加入しないことによるデメリットははっきりとあるのではないでしょうか。


X.すぐには加入できないが

本会会員の中の協会会員の割合は50%台ですので、協会県士会への加入の方向を打ち出したとしても、その比率が70%を超えるまでは加入できません。
しかしながら、そろそろ今後のあるべき姿と具体的な進む方向性を打ち出す時期に来ているのではないかと考えます。